氷河期

氷河期にっき④

営業店配属二日目の朝8:00。始業の一時間前に会社についた私(以下:社畜)。
始業は9:00です。朝一で会社に行って、やる気みせたろかいと無駄にイキる22歳。
ちなみに初日は10時に来いと厳命されており、朝礼に参加するのもこの日がはじめてでです。

『おはよう。遅かったな』

朝8時の営業店には、9割方の既存社員が出社してました。
あれおかしいぞ。社畜たる私が一番乗りのはずなのに。しかも直属の上司(大山主任)に掛けられた言葉は『遅かったな』です。私の時計は12時間進んでいたのでしょうか。

『すいません。遅くなりました。』

条件反射で謝罪する私(繰り返しますが始業1時間前です)この時期から既に社畜ポテンシャルの高さが伺えます。まだ何をしていいかもわからず『何かお手伝い出来る事はありませんか?』と主任に尋ねると、奥で新聞を広げていた高和部長が、ほう↗!と声を上げました。

『いいねお前。ほら、大山主任、オレの手帳渡しとけよ』

ちなみ大山主任は当時40代です。高和部長は20代です。この逆年齢差の闇はいずれ。
大山主任は笑顔ではい、と頷くと、社畜に2冊の手帳を渡してくれました。A4サイズの大きなその手帳は、1冊は新品で今年度の日付、1冊はボロボロで5~6年前の日付です。

大山主任『これはT部長が新卒の時に使っていた手帳だよ。本当は入社3ヵ月目に新人が回覧するんだけど、社畜、それまで持っていていいよ。高和部長、新卒の時に新人王取ってるから参考にしてな。』

つまり新人王だった高和部長と同じように動け、という期待を込めた逸品ですね。もう一冊の新品の手帳は、同じくらい真っ黒になるまで使い込めという事でしょう。社畜は神妙に手帳を受け取ると、朝礼まで高和部長の手帳(以下:高和手帳)を眺めて過ごします。手帳の毎日の日付欄には、1日目 206、2日目455、3日目781、と数字が書いてあります。なんの事やら?ですが、徐々に色んな企業のアポで手帳は埋まっていきます。所々、タバコの灰が挟まっているあたり時代を感じます。

8:40ころ、同期の木島と安藤がやってきました。あ、あいつら待ち合わせてきたんだな。社畜だけマンションが逆方向なのです。2日目でいきなりハブられてない事を祈ります。

木島と安藤『おはようございます!』

体育会系の木島と空気読めないKOボーイ安藤は大声であいさつをします。しかし、誰も返事をしません。あれ?
木島と安藤の島(営業店には3人の主任がおり、それぞれ島と呼ばれるユニットを持っています。大体5人くらいでチーム営業を行います。社畜、木島、安藤はそれぞれの島に配属されております)の主任も顔を上げる事もありません。なんだか不穏な空気です。

8:50朝礼が始まります。奥の打ち合わせルームから、1~2年先輩の社員が5人ほど出てきます。社畜が出社した8時には既に奥で会議をしているようでした。先輩社員の内、平石先輩(1つ上)が出てくると、営業店全員が立上がり、拍手で迎えます。

全員『平石さん、10開拓おめでとう!』

どうやら平石先輩は、3月に新規法人を10件開拓したようなのです。新規法人は開拓後、審査があります。(社畜の会社は金融系です)。無事に稟議が通ると新規としてカウントされます。ちなみに1ヵ月で新規法人10開拓というのは、どの業界を見ても発狂級の高水準です。

平石先輩『ありがとう。みんなのお陰!』

陽キャ前回の平石先輩はさわやかなタメ口で席に着きます。そして朝礼が始まります。

高和部長『3月未達社員、並べ』

一気に氷点下に下がったような緊張感の中、高和部長の冷徹な声が響きます。ザッ、と軍隊のように全員整列し、4人の営業が前に出ます。

高和部長『この4匹の恥晒しどもが今から皆さんに言い訳を始めます。ほら後藤から順番に言えよこのやろう!!』

がぁん!!!

スチール製のゴミ箱を蹴飛ばしながら怒鳴り散らしました。あぁ、なんでゴミ箱がベコベコなんだろうと思ったらこれか、、、横を見ると木島と安藤は死後硬直を起こしてます。長い2日目は始まったばかりです。(つづく)


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しゃちくん
23年間の会社員生活にピリオド! ビジネスマン人生の後半は起業戦士として生きていきます!